誰が読みたいこんなSS・18 *2010/01/23 (Sat) 00:38 - 呟き -

FF13クリア記念。


■内容■

FF13三章辺り、スノセラ前提スノライ。
と言い張っていいですか。

+　+　+


「おっと」
足元が滑った。
流れた視界を繋ぎ止めたのは、その声と手だった。
「大丈夫か、義姉さん？」
不覚。
ヒーロー気取りで得意げに笑う顔に、歯噛みする。
よりによって、この男に失態を見られ、救われるとは。
「クリスタルってのも、雪や氷ほどじゃねぇけど、歩きにくいな」
起伏の激しい道なき道。足場の確かな場所まで自分を引き上げながら、スノウが言う。
コクーン辺境、ビルジ湖。
今この一帯は、一面──草も木も大地も、湖面までもが──クリスタルと化していた。
「まあでも、こんな景色、滅多にお目にかかれるもんじゃねぇよな。流石は下界の」
「放せ」
面白くもない言葉を遮り、言う。普通では有り得ない、幻想的な景色を物珍しげに眺めていたスノウが、振り向いて首を傾げた。
「何を？」
「手」
怪訝な面持ちで、スノウは視線を下げる。スノウの手は、先程掴んだ手首から移動して、まるで手を繋ぐようにこちらの指先を握っていた。
「あ。悪い」
言われて初めて気が付いた。そんな風に目を丸くして、手を放す。その様に、呆れた。
「無意識か？　お前はいつも、そうやって無節操に女と手を繋ぐのか」
全く、妹はどうしてこんな軽薄な男に惹かれたのか。
掴まれていた手を拭うように擦りながら、スノウを睨む。スノウは、苦笑しつつ後ろ頭を掻いた。
「いや。なんか、セラ相手のつもりになってた」
気安く妹の名を呼ぶな。
睨む瞳を剣呑に細めたが、スノウは気付くでもなくへらへらと喋り始める。
「セラって、意外と抜けてるとこあるだろ？　角を曲がろうとして壁にぶつかったり、『前ここで転んだよな』って話をした傍から同じところで躓いたりさ」
知った風な口を利くな。
言ってやりたかったが、残念なことに、スノウの口が語る妹像は的を射ていた。
セラは、頭がよくて優しい子で、しっかりしているのに、そういう危なっかしいところもある。
だから、守ってやらなければならなかった。
両親は既にいない。もう何年も前から、セラを守れるのは自分だけだった。
働いて食べさせるだけじゃない、もっと傍にいて、目を配って。
話をして、理解し合えていれば。
自分がもっとしっかりしていれば、こんなことには──

「義姉さん？」

その声は、随分と遠くから聞こえた。
はっと、顔を上げる。いつの間にか大分先を行っていたスノウが、駆け戻ってくるのが見えた。
「付いてきてると思ったのに何でいねぇの？　俺、空気に向かって話しかけてたぜ？」
佇んだままだった自分の元まで戻ってきて、スノウは笑う。
「そういうとこ、やっぱセラの姉さんだな。セラもよく、気が付いたらはぐれてんだ。だからいつも、手を繋いで──」
「黙れ」
一言で制する。この男の口から、セラの話など聞きたくない。
大体、責められる謂われなどない。この男に付いて歩く義務も、話の相手をしてやる必要もないのだ。
口ばかりの男だ。
この男は言ったのだ。セラを守ると。
なのにこの体たらくはどうだ。守る守る、言うだけなら誰でも出来る。もし本当にそうしていたのなら、セラが──少なくともセラ一人が、あんな目に遭うことなどなかったはずだ。
「そこをどけ」
この男は信用ならない。
こんな男に、セラは守れない。
口を噤んだスノウを押し退け、その横を擦り抜ける。
と、スノウが、呟いた。

「俺が、ずっと、手を繋いでいたらよかったんだよな」

先程までの脳天気な様子とは打って変わった、低い声。
思わず足を止める。振り返ると、スノウは、元は樹木だったのだろう頭上のクリスタルを見つめていた。
「俺がもっとしっかりしていれば、こんなことには」
衝動が込み上げる。
殴り付けてやりたい。
「黙れと言ったはずだ」
スノウがこちらを見た。
その顔から視線を逸らし、クリスタルの道に向き直る。
そんな顔は見たくない。泣き言も、聞きたくない。
罪を突き付けられるのは、堪らない。

眼前に広がるクリスタルの森を睨む。 煌めくクリスタルに映る自分の姿に気付いて、咄嗟に目を背ける。
こちらを見たスノウは、後悔ばかりが滲む顔。
自分も同じ顔をしている。
この世で一番忌々しいあの男と、同じ罪を背負っている。