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夏の最終在庫総ざらえ。


■内容■

バルアシェnot恋愛。
特に山もオチも意味もない。
フランさん、本当こんなんばっかり。
このネタだともうちょっとこう何とかなった気がするんだけど、方向を見誤りました。

モンスターが持ってるような物だから、普通の物より強烈なんだという妄想。
モンスター自身じゃないよ。念のため。


+ + +

これで大分フォルダ内がすっきりしました。

……あれ?
バルネロは?

+ + +


「オニオン?」
バルフレアが聞き返したのに、雪に覆われた地面に腰を下ろして手元の鍋を見つめていたフランは、視線を動かすことなく静かに頷いた。
「さっき、倒したでしょう」
言いながら、やはり視線は鍋に留めたまま、長い爪の指が指した先に、モンスターが転がっている。ぱっと見だけなら愛くるしく見えなくもない、マンドラゴラ系のあれだ。
「取れたオニオンを調理しようと思って、下拵えを頼んだの。そうしたら」
「これ、水の中で処理しないとすごく刺激の強いガスが出て、目に染みて大変なことになるんです。それを注意するのを忘れちゃって」
フランの向こうで当のオニオンを水に漬けているパンネロが、面目なさげに溜息を吐いた。
「で、食材のことなんか知りもしない王女様は、無防備に皮でも剥いて、あえなく目をやられちまったってわけか」
「そういうわけだから、バルフレア。これ、お願いするわ」
フランが差し出したのは、今まで彼女が覗き込んでいた鍋。蓋を開けて中身を見やれば、何やら暗緑色というか暗褐色というか、判別しがたい微妙な色合いの液体が入っている。何というか、何とも言い難い匂いも、する。
「……薬湯か」
戦士と薬師しかいない閉鎖された里で生まれ育ったフランは、当然のようにその両方に心得がある。そのフランの相棒を数年来務めているバルフレアは、これまで幾度か、この手の物体に世話になったことがあった。
立ち上る独特の匂いに僅か顔を顰め、すかさず蓋を戻したバルフレアに、フランは涼しい顔を向ける。
「これに浸した布で目を覆うよう、王女様に」
「了解。で、その王女様はどこだ?」
「あの辺りの祠で休んでいるはずよ」
バルフレアはフランが指差した辺りを振り返った。が、何も見えない。正確には、真っ白な霧しか見えない。
幻妖の森、目に見えるというか見え過ぎるほどに濃密なミストの漂っている向こうに、言われてみれば、祠のような影が見えるような見えないような。
「……あっちだな?」
うっかり方向を見誤れば、このキャンプに戻ってくることも危うい。
確認して、バルフレアは霧の向こうへと足を向けた。




「王女様。具合はどうだ?」
無事見つけた祠の人影に、声を掛ける。
祠の屋根の下に寝床を作り横になっていたアーシェが、目許を覆っていた布を押さえ、慌てたように上体を起こした。
「バルフレア?」
「フランから薬湯を預かってきたぜ」
言いながら、アーシェの傍らに腰を下ろす。アーシェはその気配を察知して、けれど視界が塞がれているため、微妙な方向に顔を向ける。
「薬湯?」
「薬草を煎じた奴だ。布をこれに浸して、目に当てておけ、だと。今使ってるそれでいいだろ」
貸せ、というニュアンスで、布を押さえているアーシェの手の甲を指で叩く。急に触れられて驚いたのか、アーシェがびく、と身動いだ。
「あ、悪い」
「いえ」
アーシェが、布をそっと外してバルフレアに差し出した。久しぶりに光に晒されて眩しいのか、それともオニオンの刺激が未だ残っているのか、瞳を盛んに瞬かせている。と思いきや、両手のひらに顔を埋めてしまった。
「……あぁもう。最低」
「王女様にも弱点があったか」
覇気のないその様が珍しくて、からかうように言ってやる。常ならば即座に睨み付けられるところだが、今は流石にそれどころではないようで、殊更に大きな溜息が漏れただけだった。
「そんなにすごいのか、オニオンのガスってのは」
アーシェから受け取った、水に浸しただけだったらしい布を薬湯に漬ける。白かった布が、たちまち緑のような褐色のような色に染まった。
「一度、食らってみればいいんだわ」
死にそうに痛い。
呻いたアーシェの、今度は手ではなく俯いた頭を、手のひらで軽く叩く。
「せっかくだが、遠慮しておく。ほら、押さえとけ」
滴が滴り落ちない程度に絞った布を、アーシェの手に触れさせる。と、アーシェが、目許を片手のひらで押さえたまま、僅かに体を後方に退いた。
「……それはそれで、結構な匂いね」
手のひらの陰で瞬かせた焦点の合わない目で薬湯色に染まった布を捉え、それを避けつつ、アーシェは唇に引き攣った笑みを浮かべる。
「死にそうに痛いのと結構な匂いと、どっちがマシだ?」
「ちょっと!」
鼻先に布を突き付けてやったのに、アーシェが慌てた声を上げた。
目許を押さえていない方の手が、布を押し退ける。その手を掴み、再び布を近付けようとしたが、その手は逆に、アーシェの残りの手に掴まれた。
「……ちょっと、待って頂戴。覚悟がいるわ」
僅かに息を弾ませて、アーシェが呟く。アーシェがバルフレアの手を放したので、こちらも譲歩して布は一旦遠ざけてやった。
「フランの薬湯は効くぜ。こんなところで足止め食らうのは王女様の本意じゃないだろうし、さっさと覚悟とやらを決めることを勧めるな」
「分かっています」
アーシェは両手のひらに顔を伏せ、長い長い溜息を吐いた。ついでに何か恨み言めいた言葉を呟いたようだったが、その内容までは分からない。
「……いいわ。頂戴」
白い手が差し出される。そこに、布を載せる。手のひらの上の布を見下ろす角度で、アーシェは今正に覚悟を決めた、というように、もう一度息を吐いた。
「……」
両手を胸の前に掲げる。
その格好のまま。
動かない。
「おい」
声を掛けると、細い肩がぎくりと揺れた。
「覚悟決めたんじゃなかったのか? いつまでそうしてるつもりだ」
「わ、分かっているわ」
目が見えていたのならばこちらを睨んだであろう口調で言って、アーシェが再び息を吐く。
「……」
手が、僅かに上がった。
と思った次の瞬間、下がる。
「……」
再び、上がって。
下がる。
「……」
そして、三度。
「……」
苛。
バルフレアの中で何かが切れた。
「ああぁもう埒が明かねぇ! 俺に寄越せ。一思いにやってやる!」
「え、ちょっと、待っ……」
まるで掴みかかるかのような気配を感じたのか、アーシェは身を庇うように腕を顔の前で交差させた。一方の腕を掴んで布を取り上げようとしたが、アーシェは残りの腕を闇雲に振り回す。フランほどではないが、アーシェの爪も、立派な凶器だ。
「ちっ、この……」
布の入手は一旦諦め、暴れ回るもう一方の腕も捕獲した。こちらの両手も塞がっているこの状態では如何ともし難いので、細い両手首を片手で掴み、アーシェの頭の上で、祠の床に押さえ付ける。
「ちょっ……バルフレア! 放しなさい!」
「うるせぇ。いいから少し大人しくしてろ」
布はどこだ。
アーシェが抵抗の最中に放り投げた薬湯色の布を探す。バルフレアの位置から見て、アーシェの体を挟んだ向こう側に落ちていた。アーシェの両手を押さえ付けたまま、空いている方の手を伸ばしてみたが、届かない。
「……バルフレア!」
アーシェがぎくり、と身を竦ませ、切羽詰まった声を上げた。
「黙ってじっとしてろって、言ってんだろうが」
片膝でアーシェを跨ぎ、体の位置を布に近づける。もう少し。
上体を倒して、手を伸ばす。体の下で、アーシェが藻掻いた。
「バルフレア、いい加減にしなさい。放して」
アーシェの声が、耳許で聞こえる。微かに震えている、ような気がする。
「──そんなに、嫌がるなよ、王女様。そう、悪いもんでもないぜ?」
確かに強烈な匂いではあるが。
思いながら、指を伸ばす。──届いた。思わず、勝ち誇った笑みが零れる。
布を掴んで、引き戻した腕の肘を突く。アーシェが、唇を噛んで、顔を背けた。きつく閉じられた瞳に、オニオンの刺激の所為だろう、涙が滲んでいる。
つらい癖に。
思いながら、その耳許に、囁きを落とした。

「──さあ、観念しろよ、王女様?」




「あら」
聞こえた声に、バルフレアはそちらを振り返った。霞んだ霧の中に、フランが立っている。
「遅いから、様子を見に来たのだけれど。お邪魔だったかしら」
「あん?」
胡乱な声を上げて、フランを見やる。
この格闘の様子が目に入らないのか。さっさとこっちに来て押さえ付けるのを手伝え。
言おうとしたその時、
「フラン……!」
アーシェが、縋るようにフランを呼んだ。
何だその声は。そもそもこの薬湯を作ったのがフランだということを忘れてやしないか?
自分だけが割を食ったような気がして、不機嫌に唇を曲げる。と、バルフレアを見下ろしながら、フランが片手のひらを頬に当て、殊更に息を吐いた。
「そういうプレイの方が燃えるのだということは、想像できなくもないけれど。でも、お相手の同意は得るべきだと思うわ」
「……は?」
何を訳の分からないことを言っている。
眉を顰めながらアーシェを見下ろした瞬間、ぎくり、と体が強張った。
押さえ付けた手首。伸し掛かった体。薄鈍色の瞳に滲んだ涙。
これは、端から見れば、どう見ても。

「……あー……」
そろり、と体を起こす。
「悪い。そんなつもりじゃ」
掴んだ手首を解放する。
あぁ、掴まれた痕が痛々しい。
アーシェが、ゆっくりと体を起こした。涙の浮かんだ、視力が戻りつつあるのだろう瞳が、きっ、とこちらを睨む。

ぱあん!

高貴な手のひらが、バルフレアの頬で、派手な音を立てた。
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