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夏休みスペシャル、まだまだ行くよー!(いつの間にそんなスペシャルに)


■内容■

バルアシェ現代パラレルThisIsLove・extraその2。
その2だけど時系列はこっちの方が先。
TIL3の直後。

そもそもはside-rで短くさくっとやってしまおうと思ってたんですが、TILシリーズをリアルタイムでやってた頃、「爽やかに解決するのナシで」と笑顔で(多分笑顔だった)言われたので、ドロドロに仕立て直してみたもの。
原作ではやむを得ない理由で多分尊重してると思うのだけども、尊重する理由がなくなるパラレルではきっと容赦ないと思うんだ。

助教授は、今、准教授らしいですねそういえば。

+ + +


雨は唐突に降り出した。
窓硝子を叩く雨粒の音に、ラスラは研究室の窓から黒い雲が立ち込める暗い空を見上げた。つい先程まで広がっていた青空が嘘のような激しい雨。
アーシェは傘を持っていただろうか。半時間ほど前、一緒に過ごしていた恋人に思いを馳せる。
否。元、恋人だ。
自分は、彼女に別れを告げたのだ。
「――」
ラスラは携帯電話を取り出した。自分が呼び出した分の時間のロス、その所為で雨に降られた筈だ。無事に帰宅したか確認するのは当然の責任に思えた。
携帯を操作して履歴を開く。発信でも着信でも構わない。真っ先に出てくるのはアーシェの番号だ。
通話ボタンを押そうとしたその瞬間、
「来てたのか」
背後から、ぶっきらぼうな女の声がした。この研究室の助教授だ。
急いで携帯を畳み、振り返る。
「先生。お邪魔してます」
白衣のポケットに携帯を滑り込ませ、気を付けの姿勢から頭を下げた。
「研究室に正式に配属されている学生でもないのに、いつも設備をお借りして申し訳ありません」
「構わない。君のような優秀な学生が出入りしてくれると、うちの学生の刺激になる」
「ありがとうございます」
素っ気ない口調の言葉に、ラスラは顔を上げて微笑みを返す。
助教授の女は実験台に腰を預けると、その上に置かれていたラスラのノートを手に取りぱらぱらと捲った。それにはこの実験室を借りて行った研究のデータが記されている。
「留学の準備は進んでるか」
女がノートに視線を落としたまま言った。
「ええ、少しずつ。夏休みの間に向こうに渡って、大学の方には一応九月からということに」
「君のことだ。向こうに行けばすぐにでも、研究室に閉じこもるのだろうさ」
「そうかもしれませんね」
ふふ、と笑って、ラスラは差し出されたノートを受け取った。助教授の女が、辛うじてそれと分かる程度の笑みを浮かべる。
「今に、あちこちで君の名前を見るのだろうな」
「そうなったら、先生のお陰ですね。ここをお借りして書いた論文が、あちらの権威の目に留まって留学が決まったわけですから」
「君の実力だ」
「感謝しています」
下げた頭のその上に、女の声が降る。
「君の活躍を期待してる」
その台詞はどこかで聞いた。
そんなことを考え、返答が遅れる。
「……ありがとうございます」
更に深く下げた頭を戻した時、既に女の姿はなかった。ラスラはそっと、白衣のポケットに手を入れる。
「――」
君の活躍を期待してる。その台詞を言ったのは、他ならぬ自分自身だ。
指先に触れた携帯から手を放す。
最後に、笑っていた。
大丈夫だ。
ふ、と息を吐き、思考を研究へとシフトさせるべく、ラスラはノートを開いた。



雨は夜の入り口で上がった。
夏の夜、下がりきらない気温に湿気の相乗効果。じっとりと纏わり付く大気の不快指数の高さは考えるまでもなく知れたが、その所為だけでなく、ラスラは眉を顰めた。
帰宅する道すがら、見上げたアーシェの部屋の窓に、灯りが点いていない。
就寝するにはまだ早い。どこかで雨宿りでもしていて、まだ帰っていないのだろうか。それとも。
「――」
人が来る。そちらに背を向けて歩き出しながら、ラスラは携帯を手に取った。夜闇に白く浮かび上がる小さな長方形、そこに並ぶ一番上の名前を選択する。
と、
「ここでいいわ」
聞こえた声に、ラスラははっと立ち止まった。アーシェだ。
携帯を閉じて振り返る。呼ぼうとしたその声を、既の所で呑み込んだ。
ラスラの知らない男が、アーシェの隣に立っていた。
「じゃあな」
暇を告げて帰りかけた男を、アーシェが引き留める。少しの遣り取りの後、男がふと、辺りを見回した。
何故だか姿を見られてはいけないような気がして、ラスラは咄嗟に一歩後退った。エントランスの煌々とした灯りが落ちるそこに比べれば、こちらは暗い。気付かれていない筈だ。
息を潜めて二人の様子を窺う。と、男が身を屈めた。
影が、重なる。
アーシェが、男を見つめる。
微笑みが、零れる。

鼓動が、跳ねた。



アーシェがエントランスへの階段を上がっていく。それを見送って佇んだままだった男が、踵を返した。
来た方向に戻っていくだろう。
そんな予想に反して、男はその場で立ち止まった。すい、と流された視線が、あろう事かラスラを捉える。
「――よう、王子様」
気付かれていた。
ラスラは虚を衝かれて立ち竦み、それから、不可解なその呼びかけに眉を顰めた。
「……何だって?」
「あんただろ? アーシェの『王子様』」
馴れ馴れしく言ってに、と笑った男を、ラスラは警戒するように睨み付けた。しかし男は気にした様子もなく、笑みを浮かべたまま近寄ってくる。
「あぁ。もう、『元』だな」
見下したような口調に、かっとなる。
ラスラの知らない男。けれど、アーシェに触れた男。
「あんた、アーシェとどういう」
「見てたんだろ?」
そういう関係。
人を食ったような笑みを消すことなく言って、男がラスラに流し目をくれた。
「で、元王子様が、ここに一体何の用だ? まさか、偶然通りかかりました、なんて訳はないよな」
「あんたには関係ない」
「大有りだね。あんたにうろちょろされると目障りだ」
「今はあんたが『王子』だからか?」
馬鹿げた物言いを真似、嘲るように言ってやる。が、男は涼しい顔で軽く肩を竦めた。
「生憎、俺は王子様なんて柄じゃない。そうだな、お姫様を攫った賊ってところか」
どこまでもふざけた男だ。
思いながら、男を睨み上げる。
「――雨に降られただろうから、どうしたかと思って寄ったんだ」
「それこそ、あんたには関わりのないことじゃないか?」
「俺と会っていたから帰るのが遅くなって、雨に」
「あぁ」
男が、殊更に声を上げた。
「つれない王子様だよな。泣いて縋るお姫様を袖にして、雨の中に放り出すとは」
「泣いて?」
ラスラははっと顔を上げた。男が、僅かに目を眇める。
「……ふぅん」
一人、得心がいったという風に頷く。その訳知り顔が、気に障った。
「おい、泣いてたのか? アーシェが?」
「安心しろよ。ちゃんと慰めてやったさ」
詰め寄ったラスラに、男がに、と口の端を上げた。男の言葉と仕草、そのどちらもに含みを感じて、ラスラは微かに息を呑む。
「……あんた。アーシェに、何を」
「何って」
分かってる癖に。
男が意味ありげに笑う。
「っ……!」
突き出した拳は、しかし易々と受け止められた。
「あんたの後始末を引き受けてやったんだ。礼を言われこそすれ、殴られなきゃならない謂われはないな」
「アーシェは、」
つい数時間前までは自分の恋人だったのだ。
なのに──だから。
そんな筈がない。
「――あんた、まさか」
拳を掴む男の手を振り払い、ラスラは男の胸倉に掴みかかった。男の背中が手近の建物の壁にぶつかる。
「まさか、無理矢理アーシェを」
「しつこいな。見てたんだろ?」
壁に押さえ付けられながら、それでも男は不敵な表情を崩さない。
「そんな風に見えたかよ」
大体。
言って、男がラスラの服を掴んだ。不意を突かれて体勢を崩し、今度は逆に、壁に押し付けられる。
「仮にそうだったとしても、あんたにはもう関係ないだろう」
「……何だと」
刹那、息を詰まらせて、それでも男を睨め付ける。
ラスラを見下ろして、男がす、と目を細めた。
「気に入らないな」
男の手に力が込められる。胸倉をきつく掴まれ力任せに押し付けられ、ラスラは顔を顰めた。
「放、せ」
呻いたのに、しかし男は頓着しない。
「あんたは捨てたんだろ? なのにまだ、お姫様は自分の物って顔だ」
「……確かに」
胸元を締め上げられたまま、ラスラは声を上げた。
「確かに、別れたさ。でも、アーシェは、子どもの頃からの友人だ。心配するのは、当然の」
「過保護」
ラスラの言葉を男が遮った。
「いや、嫉妬か? どちらにしろあんた、友人の域を超えてるぜ」
「みすみす見過ごすわけにはいかないじゃないか」
「それがお姫様の選択でも?」
ラスラは息を呑んだ。
言葉を失ったラスラの顔を覗き込んで、男が薄く笑う。
「お姫様が、俺を選んだんだよ。それでも何か、問題が?」
「……アーシェが?」
そんな筈がない。呆然と呟く。
自分が話を切り出さなければ、アーシェは今でも、
「それとも何か。手放した物でも、他の人間が手に入れたら惜しくなるのか」
男の声が、低く響く。
違う。
アーシェは今でも、自分の大切な、
「失って初めて大切なものが分かった。よく言うよな。だが、気付いてからでも取り戻せると、本気でそう思ってるのか? 甘いんだよ、王子様。失っちまえばお終いだ」
もう戻らない。
囁いて、男が荒っぽい仕草で手を放す。息が溢れた。眩暈に任せて壁に背中を擦り、頽れる。
「……アーシェは、」
掠れた声で、呟く。
ラスラを、男が醒めた瞳で見下ろした。

「──もう、俺の物だ」
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