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続き。
ていうかside-b。
前の記事を先にご覧下さいませー。


+ + +

でっていう。
こういうのを書いてみたかっただけ。
時間つぶしのお役に立ちましたのなら幸いです。

+ + +


「明日のことだけれど。一時半に駅でいい?」
聞こえた女の声は、端からでもはっきり分かるほどに浮かれていた。
「アッシュ。そのことなんだけど」
女の連れらしい男の声は、女とは対照的にテンションが低い。
これは、一波乱あるな。
女のすぐ後ろのテーブル席に座っていたバルフレアは、決して褒められた行為ではないと知りつつ、背後で展開される話に耳を傾けた。
「明日は行けなくなったんだ」
「……何か急用が入っちゃった? じゃあ、他の日に」
「アッシュ」
女を遮って、男が声を上げる。
「明日も他の日も、行けない」
なかなかヘヴィだ。
その先の展開に予想が付いて、バルフレアはさりげなく姿勢を変えつつ、珈琲の入ったカップを傾けた。
「……どうして?」
「君も、薄々分かってただろ?」
「知らないわ、そんなの」
「アッシュ」
宥めるような呼び掛け。そして、とどめ。
「もう、終わりにしよう」
あーあ、可哀想に。
珈琲を飲み下して、バルフレアは息を吐いた。
男の最後通告に、女の返答はない。泣いている気配はない。状況を受け入れられず、呆然としているのだろうか?
想像を巡らせた時、女の声がした。
「──明日、待ってるから」
震えてはいない。涙など滲んでいない、意外にもごく普通の声音。
それと同時に椅子が動いた音がして、女がバルフレアの横を通り過ぎていった。空気が流れて、ふわり、と芳香。
いい女だ。
立ち去る女の後ろ姿を眺めながら、バルフレアは目を細める。
明日一時半、駅、ね。
脳内に書き込んで、バルフレアは席を立った。



いた。
駅の改札付近にやってきたバルフレアは、女が当たり前のようにそこにいるのに拍子抜けした。
待ち合わせの場所と時間なのだから当然だ、というのはこの場合当てはまらない。指定時間はとうに過ぎている。
やっぱりすっぽかされたか。
思いながら、所在なげに丸い柱に寄りかかっている女に歩み寄る。
「アッシュ?」
声を掛けると、俯いていた女がはっと顔を上げた。バルフレアを視線がぶつかると、警戒したのか僅かに薄鈍色の瞳が細まる。
「……アッシュ?」
呼んだ名前が疑問形で返される。とぼけるつもりなのだろうか。しかし、
「あんたのことだろ?」
断定すると、女は否定しなかった。
「……あなたは?」
「バルフレアだ」
「バルフレア」
繰り返して、女は更に何かを呟いた。
「ん?」
聞き取れず、聞き返す。しかし女は緩く首を振っただけだった。
「何でもないわ。……どこへ行くの?」
女から切り出したのに、バルフレアは片眉を上げた。こんな行きずりの誘いに──厳密に言えばまだ誘ってはいないが──、こんなに簡単に乗ってくるとは思わなかったのだ。
自棄か。
思いながら、しかし遠慮はしない。その必要がない。
「あんた、昼は?」
「済ませたわ」
「俺はまだなんだ。付き合えよ」
「いいわ。行きましょう」
女が、寄りかかっていた柱から離れる。その肩に手を伸ばしても、拒絶はなかった。
むしろ微かな安堵感すら感じ取れたのに、少しばかり、憐憫を覚えた。
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