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ある日何かに萌えて書いたSS。
てうさんにぷれぜんとふぉーゆー。


■内容■

バルアシェ現代パラレル。
いつもの学生のバカップルな二人ではなくて、もうちょっと大人で、もうちょっとこうなんていうか。
私には珍しくバル←アシェ。

ところで作文の参考にニューオータニのサイトを見てたんですが、デラックスダブル(50㎡)のお部屋がとても素敵だ。
ここに連れ込ませたかった……(何を言ってる)

+ + +


「珍しいな」
密やかな声。
「……何が?」
アーシェは隣に立った男を見上げた。長い指でスツールを回転させて、男はそこに腰を下ろす。
「お前から呼び出すのが」
しかもこんなところに。
言いながら、バルフレアは前方と後方に一度ずつ、視線を流した。
前方に広がるのは、「宝石箱をひっくり返したような」光の海。後方にあるのは、対照的に控えめな照明、そして脇役に徹しているBGM。
高層ホテルの最上階、バーの一角。眼下の夜景が一望できる、外界に面して配されたカウンター席で頬杖を突き、硝子越しに下界を俯瞰しながら、アーシェは軽く息を吐いた。
「ここのレストランで人と会ってたのよ」
「そりゃ、豪勢なことで」
バルフレアを席まで案内してきたウェイターが、オーダーを受けて下がって行く。ラミネートされたメニューのカードをテーブルに戻して、バルフレアは煙草を取り出した。
室内を映した硝子の中で炎が上がる。炎の明るさに掻き消されて虚像のバルフレアが見えなくなってしまう。そんな錯覚を覚えたが、外の闇は圧倒的に暗く、炎はバルフレアの手の中で揺らめいただけだった。
「正式に決まったわ」
虚像に話しかける。紫煙を吐いたその虚像が、アーシェを見た。バルフレアが見ているのも虚像のはずなのに、視線はきちんと出会う。
「何が」
「結婚」
硝子の中で、小さな赤い光が軌跡を描いた。
バルフレアの口許に運ばれたその光が、いくつか数を数えられるだけの時間、輝きを増す。
「──ふぅん」
紫煙の後に、応え。
あからさまに気のない返事に、アーシェは呆れた風に首を傾げてみせた。
「それだけ?」
「それだけって?」
「驚かないのね」
「驚く要素がないだろうが」
分かってたことだ。
言って、また煙草を唇に運ぶ。煙が染みるのか、僅かに目を細めた横顔を今度は直に見つめて、アーシェは苦笑した。
「そうね」
分かっていたことだ。
親の決めた許婚と連れ添う自分。唯々諾々と従う自分。──そして、何も言わない彼。
会話の切れ目を見計らったように、グラスが運ばれて来た。バルフレアが無造作に、黒い陶器の灰皿に煙草を押し付ける。まだ長いのに。惜しげもなく揉み消された煙草を見つめて、アーシェは思う。
彼はいつだってそうだ。直前まで愛おしんでいたものでも、そうやって簡単に離してしまえる。
「──何か一言くらい、言葉を掛けるのが礼儀ではない?」
煙草を手放したその手がグラスに伸びる。口許に運ばれるその動きを追って、バルフレアを見つめた。
「何て言って欲しいんだよ」
ゴシュウショウサマ?
殊更に首を傾げて、バルフレアがグラスを揺らす。
「攫ってやろうか、よ」
女冥利に尽きるってものだわ。
冗談めかした言葉で、笑う。バルフレアも、自分と同じ表情を浮かべる。けれど、その唇から発せられたのは期待した言葉ではなかった。
「馬鹿馬鹿しい」
瞬時に、口にしたことを後悔した。
攫ってやろうかなんて、言われるはずもないと知っていた。けれど、そのことに失望を感じる程度には──僅かな期待を込めて縋ってしまう程度には、自分は彼に執着がある。
認めたくもなかったそんなことに気付いて、アーシェは唇を噛んだ。その気になれば身一つでどこへでも行ってしまえる、綺麗なほどに潔い彼とは違って、自分は絶望的に欲が深い。
彼のグラスの中で、氷が音を立てた。自分のグラスの氷は疾うに溶けている。何も、音がない。
会話がない。続く沈黙が居たたまれなくなって、アーシェはスツールを下りた。
「……それじゃ、」
さよなら。
これまでで最高の笑顔を浮かべて、その一言を言えばいい。そうすれば、綺麗に終われる。けれど、たったそれだけのことがどうしても出来ない。
せめて、泣くことだけはしたくない。
最上の、ではなく、よりよい方の選択肢を選んで、アーシェは無言のまま身を翻した。
その腕が、掴まれる。
「何も変わらないだろ?」
「え?」
引き留められたことに驚いて、バルフレアを振り返った。
「……変わらない?」
彼の言葉を繰り返す。彼が、ゆっくりと頷く。
「これからは、会う度に、多少の制約とスリルが付き纏う。それだけの話だ」
密やかに囁かれ、アーシェは小さく息を呑んだ。
アーシェを窺うように覗き込む緑がかった榛色の瞳が、可笑しげに細められる。
「何だよ」
「……だって」
彼が、そんなことを言うはずはないのだ。
柵も束縛も、重荷も面倒も嫌う彼が。
掴んだままの手を引いて、バルフレアはアーシェをもう一度隣に座らせた。
「何も変わらないさ。ただ」
笑い混じりの言葉が、ふと、途切れる。
バルフレアの指が、アーシェの頬に触れた。アーシェの形を確かめるかのように、アーシェの熱を感じ取ろうとするかのように、長い指が白い頬をゆっくりと辿る。頬から離れたその右手が、アーシェの左手を取った。
刹那。
呼吸が止まる。

「──俺の印を付けられなくなったお前が、他の男の印を付けてくる。それだけの話だ」

囁いた唇が。
薬指に、触れた。
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