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「ラブラブ」が書きたかったんだ。


■内容■
臨也と波江@デュラララ!!
楽しい雇用生活。

ご存じでない方は、二人は仲の悪いカップルであると思って読めば間違いないと思います(大間違い)。

+ + +

 机の上で携帯が鳴った。
 波江は、反射的に時計を見る。夜九時。「ちょっと野暮用で、二、三日留守にするから」と出かけていった臨也からの定時連絡だ。思った通り、携帯には「ウザヤ」と表示されていた。
 波江が臨也をどういう名前で登録しようと、それは波江にさえ分かればいいのだし、全く波江の自由だ。勿論、臨也が波江を登録する名前も自由だ。実際、臨也の携帯に、波江はピザ屋として登録されている。だから、仮に臨也の身に何か起こっても波江には連絡が来ない。いいことだと思っている。逆に、波江の携帯を見る者が見ればこれが臨也だとすぐに知れるだろうが、それは別にどうでもよかった。たまには臨也も波江のために迷惑を被ればいい。
 波江は臨也のために個別の着信音など設定していない。そんな手間を掛ける価値がないからだ。汎用の着メロが鳴る携帯を開き、波江は通話ボタンを押した。

「もしもし」
『波江? 俺』

 まるで恋人同士のようなやりとりだ。思った瞬間、背中を虫が這い回るような不快感が湧き、携帯を床に叩き付けたくなったが我慢した。これは波江個人の携帯だ。

『そっちは変わりない? 何か伝達事項はある?』
「特に何も。お客も配達物もない、実に穏やかな一日だったわ」
『それは僥倖だね。嵐の前の静けさって奴だよ。来たる波乱が待ち遠しいじゃないか!』
「そうね、あなただけに降りかかる波乱なら大歓迎だわ」

 これで報告は済んだ。波江が通話を切ろうとしたその時、臨也が別のことを問い掛けてきた。

『波江。夕食は食べた?』
「夕食? ええ。一人だから、簡単に済ませたわよ」
『でも、いつも通り、ちゃんと作ったんだろ?』

 波江が臨也の秘書として雇われる際に交わした契約には、食事の支度も含まれている。臨也は「人、ラブ! 俺は人間が大好きだ! だからレトルト食品は嫌いだ! あんな画一的な、作り手の顔が全く見えない食べ物を食す奴の気が知れない! 奴らは一体何を考えているんだ! ああ、だから人間は面白い!」だそうで、とにかく人の手で調理されたものでなければ食べる気がしないらしい。
 信念にこだわり抜いて飢え死にでもすればいいと思ったが、どうせ波江も食事は摂るのだ。ついでで臨也から搾り取る給料の額が増えるなら、一石二鳥だ。

「作ったけど」
『何作ったの?』

 波江の食事にまで興味を示すとは、全く、情報屋という輩は鬱陶しい。思いつつ、波江は一文の得にもならないであろう夕食のメニューという情報を無償で告げた。材料が安かったから、そして手軽に作れるから。そんな理由で決めたワンプレートディナーだ。
 すると臨也が、え、と驚いた声を漏らした。

「何よ」

 別に驚かれる謂われはない。不審げに波江が聞き返すと、

『俺もさっき、それ食べた』

驚きをまだ引き摺っているような、どこか呆然とした声が答えた。次の瞬間、声のテンションが急激に跳ね上がる。

『え? 何? 俺たち、離れてるのに同じ物食べてたってこと? これってどんな運命? ミラクル? むしろラブ? ねえ波江、俺たちってラブラブ!?』

 波江は携帯を見つめた。思わず耳許から離してしまったのだ。

(……ウザッ!!)

 波江は携帯をへし折りたくなった。
 そして、それを必死に我慢した。
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